環境と経済発展のどちらを取るか。アントロポセン(人新世)の課題は、それだけにとどまらない。社会や自然のあらゆる問題に向けて、新しい技術をいかに柔軟に変更、改善していくかが必要になる。そのためには、アカデミック領域を横断して、理系・文系といった従来的な枠組みの外に知識と議論を持ち出し、考えられるあらゆる方法を試さなければならない。その成功と失敗、進捗と問題をオープンにし、社会全体の共有資産にするのがチームの目的だ。
本チームの前身となったのは、内閣府のムーンショット型研究開発制度 ミレニア・プログラム。日本の新たなビジョンを策定するためのチームとして集まったメンバーを中心に活動している。半年間のプロジェクトで見えた課題をさらに深めるために新たなメンバーと共にスタートした。
研究内容概要
-
専門は平和研究、国際政治、国際法、憲法。主なトピックとして、国籍・無国籍、ポスト・コロナ社会をはじめ、ポスト・アントロポセンを構想するための法や社会のあり方について研究を行っている。
ポスト・アントロポセンについてのビジョン
-
社会の当たり前を問い直すという意味で、ポスト・アントロポセンは重要な概念だ。社会では、例えば「奴隷」などの例が挙げられ、奴隷制度を支持していた人々が差別的だったという理由で批判されることもある。しかし、今日の社会で規範視されている「人権」も、人間以外を排除しているという点において、「奴隷」制度と似た構造を持っているのではないだろうか? もし今後、人間とAIや他の生物のコミュニケーションができるようになれば、「人権」という概念が、他の生物を排除する差別的な概念であると考えられる可能性もある。今は先進的であると考えられる「人権活動家」が、将来的に差別主義者として批判される未来も決して絵空事ではない。
もちろん、今を生きる我々が未来を完全に予測することはできない。しかし、社会にある「国家」や「人間」、「人権」といった当たり前を問い直すことは、我々の価値観の基盤を理解することに繋がり、新たな社会を構想するために重要なファクターになるだろう。環境問題が現実問題として深刻化するなか、ポスト・アントロポセンは、現実に必要な社会の価値観を示すようにも思える。人間の権利を中心として多様な社会活動を行う「アントロポセン」が抱える問題を克服するために、人間が自然環境の一部として生活し、未来の世代に人間にも可能性を残すポスト・アントロポセンの社会のあり方を構想する必要がある。そのためには、自然科学やデザインの思考を交えて多角的に検討しなければならない。ポスト・アントロポセンを構想した際にはこれまでの社会通念が一気に崩れる可能性もある。現実にこうした新たな社会を構想するのが困難であるとしても、まず学術的に構想し、それを実現するためのあり方を模索したい。
研究内容概要
-
糸状菌内に存在するウイルスや、非病原性ウイルスの生態解明が主な研究。宿主のに影響を及ぼさないウイルスの重要性を明らかにすることで、ウイルスと生命体の関係性を見つめ直す。
ポスト・アントロポセンについてのビジョン
-
生物は唯一サステイナブルであることがわかっている存在だ。我々の生活をその力で成立することができれば、真に持続可能な営みが確立できるかもしれない。しかし、現状でそれを成立させるには、文明を捨てた暮らしにシフトせざるを得ない。これは、単位面積当たりの生き物から収穫できる量が我々のニーズに対して足りないこと、生物から得られる物質の種類が限られていることが大きな要因と考えられる。バイオの力をフルスペックで使った、 “トカイナカのバイオハックライフスタイル”をスマートに実現することが、アントロポセンを抜け出す糸口になるはずだ。
研究内容概要
-
専門は日本と英語圏を中心とする比較文学。文学作品における動物の表象について、特に羊に関する研究(夏目漱石や村上春樹など)と、その理論的な枠組みとなる「アニマル・スタディーズ」の研究を行っている。
*アニマル・スタディーズとは、動物と人間の関係や共生のあり方を考察するため、人文学や自然科学を融合した研究。近年では、学際研究の一領域として成立している。
ポスト・アントロポセンについてのビジョン
-
人文学研究(哲学、文学、文化人類学、芸術、メディア研究など)の主要なテーマとして頻繁に目にするようになった「アントロポセン」。科学技術と資本主義、植民地主義の発展と歴史に対して、批判的な考察が行われている。特に文学研究では、エコクリティシズム(環境批評)の観点から、文学作品と人新世についての研究が進められている。
研究内容概要
-
心の哲学が専門。最近は特に情動の哲学をベースにした人間のウェルビーイングについて研究を行い、それに基づいた科学技術の倫理的諸問題を考察している。
ポスト・アントロポセンについてのビジョン
-
ポスト・アントロポセンでは、地球温暖化問題をはじめ、地球規模の諸問題に対処するために資本主義や人間観の見直しを行おうとしている。情動の哲学をベースにした新たな価値観・人間観の構築は、そのような見直しの一助になりうるはずだ。
研究内容概要
-
主な研究対象は、一般的に「カビ」と呼ばれている糸状菌。約1万個の遺伝子を有し、細胞として複雑な仕組みを備える糸状菌は、多様な環境に適応するため、洗練された環境応答能力を駆使しながら、他の糸状菌と関わり合って生存している。複雑怪奇な微生物社会の中には、主役としてその役割を全うするカビもいれば、空気のようにただ存在するだけのものもいる、まさにミクロな多様性社会。過酷な資源獲得競争もあれば、領土を巡って化学戦争すら勃発する。このようなカビ集団間の関係性のメカニズムを明らかにすることで、生態系における微生物社会がどのように維持されているのか、あるいはどのように環境の変化に適応しているのかを解明できると考えている。
ポスト・アントロポセンについてのビジョン
-
微生物社会は人間社会のアナロジー。現在の地球が抱える問題の多くを投射することができる。むしろ微生物社会の方が、“欲”のような邪な感情が無いぶん持続可能な社会と言えるが、微生物のように無欲で生きろというのは人の営みとして難しい。微生物社会の成り立ちを理解することがポスト・アントロポセンへの道筋に直結し得ない一方で、微生物やバイオの力を理解し、活用することはアントロポセン脱却を推し進める“技術”を生む一助になるのではないだろうか。
研究内容概要
-
民主主義の健全化・社会的平等の達成のための原理を、現代の英米圏を中心とした市民教育理論・思想の分析に基づきながら、解明している。大学院院生時代から現代アメリカの政治哲学者エイミー・ガットマンの政治的教育思想の展開とその意味を探究し、その研究成果を『エイミー・ガットマンの教育理論——現代アメリカ教育哲学における平等論の変容——』(世織書房、2017年)として出版。その後、熟議民主主義の実現とそれを支える市民の育成が公教育だけではなく私教育においてもなされる必要があるのではないかという問題意識から、現代のリベラリズム思想において公権力が私的領域にどこまで介入できるかをいかに論じているかを解明し、公教育と私教育を架橋する新しい市民教育を構想しようとしている。
ポスト・アントロポセンについてのビジョン
-
社会哲学に見られるよりよい社会に向けた思考法は、利己的な個人像を前提に公正な社会システムを構想し、みなが納得するよい社会を築いていこうとするもの。利己的な個人像を起点に考えるという思考法とは別に、利他的な個人像を起点に社会のあり方を考える思考法の可能性を模索している。アントロポセンの次の時代の社会システムを「利他性」や「相互尊重」という観点から構想し、その社会を支える市民を教育によっていかに育成するかを、本プロジェクトの自身の課題として捉えている。
研究内容概要
-
細菌間相互作用が専門。個々の細菌の相互作用がどのように集団全体に波及するのかについて、低分子化合物を介した微生物間コミュニケーションや細胞外膜小胞を介した相互作用を中心に研究を行っている。
ポスト・アントロポセンについてのビジョン
-
微生物は地球で最も早くにこの地球上の定着した生命体であり、現在の地球の生態系をかたち作った。しかしながら、地球上に誕生して間もない人の活動によって物質循のバランスが大きく崩れ、アントロポセンに繋がった。今後、人と地球の共存の道を探るのには、物質循環のバランスをどのように取り戻すのかが重要である。その物質循環の鍵を握っているのが微生物である。従って、微生物の力をいかに理解し、引き出すことができるかが、ポスト・アントロポセンを考える上で必要になってくる。加えて、微生物の潜在能力については未だに把握しきれていない部分が多く、新たな機能の発見や制御・利用方法の確立は技術革新をもたらす可能性がある。微生物間相互作用は微生物の生態や新たな制御・利用方法を考える上で重要になり、さらには、このような単細胞生物がコミュニケーションをとりながらいかに社会性を発揮するかについての理解は、人の社会にも気づきをもたらす可能性がある。微生物の生き様には35億年生きながらえてきた「知恵」が詰まっており、我々もポスト・アントロポセンに向けて、学ぶべきところが多い。
研究内容概要
-
実社会には、企業や家庭等の経済主体がエネルギー技術を選び、その選択がエネルギーシステム全体の構造を変え、その変化が経済主体の次の選択を変えるという、技術と社会との相互作用が存在する。私は、この技術システムと経済主体との相互作用を解明し、持続可能なエネルギーシステム築くためのルール作りに役立てることを目指している。具体的には、経済主体によるエネルギー技術選択をゲームとして表現し、それを人間がプレイする実験と、AIがプレイするシミュレーションを行っている。また、複雑なエネルギー問題をわかりやすく伝えるため、ゲームを用いる教育・コミュニケーション手法も手がけている。
ポスト・アントロポセンについてのビジョン
-
化石燃料や原子力等、近代以降に見出された新しいエネルギー源は、CO2濃度の上昇や核廃棄物の生成を通じて、地質学的なスケールでの痕跡を地球に残そうとしている。ゆえに、アントロポセンに続く時代のあり方を考えることは、持続可能なエネルギーシステムを築くことと深く結びついている。また、アントロポセンの諸課題が技術と社会との相互作用によって引き起こされている点も、エネルギー問題との類似点と言えるだろう。
研究内容概要
-
農業経済学的な手法を利用して食料消費についての分析に取り組んでいる。これまで、食中毒事故や放射性物質汚染など、食品安全問題による消費者行動の変化や適切な情報提供のあり方、環境に配慮した農産物に対する消費者評価などについて研究を行ってきた。最近はゲノム編集や代替肉など食品をめぐる新しい技術が社会にどのように受け入れられるのかについても研究を進めている。また、海外調査の機会も多く、タイやインドネシア、セネガル、ガーナなどでも調査を行った。
ポスト・アントロポセンについてのビジョン
-
有機農産物消費や原発事故以降の食料消費の推移を分析していたときに、利他的動機(「環境負荷を低減するため」、「被災地を支援するため」など)が現実の消費行動にかなり強い影響を与えている可能性が見えてきた。実際、労働条件や取引条件の公平性、環境負荷の小ささや、動物福祉への配慮などをアピールする商品は多く存在し、一定の市場を形成している。日常の消費行動の中にある「おもいやり」に、結構期待できるのではないかと、感じている。こういった、一人ひとりのちょっとしたおもいやりが、ポスト・アントロポセンの兆しとなるかもしれない。
新規性
-
ゲームそのものを目的の解決とするのではなく、考え方のフレームワークとして活用すること。
独自性
-
このゲームを繰り返しプレイしていくなかで最適解を探し、議論を促し、より良いクリアを目指す「ループ型ボードゲーム」であること。
有用性
-
ヒト・クマ・ショクブツ・サカナの4種類の生物に
なりきりゲームをプレイすることによって、人間本位の考え方を見改めるバイアスブレイクとなる。
キミたちは新しい地球〔SMART EARTH〕への移住生命体に選ばれました!しかし、新しい地球にもっていけるものはたったの6つ。しかも新しい地球にはたくさんのイベントが発生します。
1.アイテムカード(灰色のカード)を机に並べてください。この際、灰色の面が表になるようにしてください。
2.新しい地球にもっていくアイテムを6つ選んで、プレイマットのアイテムボックスに置いてください。決め方は自由ですが、4人で相談して決めてください。
3.次に役職を決めます。4人でジャンケンをして勝った人から順番にプレイヤーカード(一番大きなカード)を選んでください。選んだカードに書かれている生き物になったつもりでゲームを進めなければいけません。
4.アイテムボックスに置いたアイテムカードを裏返しにして、描かれたハートの数だけライフ(ハート型のチップ)をそれぞれのプレイヤーに配ってください。
5.イベントカード(縦型のカード)をよく切って、裏返しにしてイベントカード置き場にセットします。
6.ミッションは毎月起こるイベントを12ヶ月分生き残ることです。「ヒト」を選んだプレイヤーから順番に時計回りに進行します。まずは山札からイベントカードを1枚めくり、プレイマットの「1」に表向きにして置きましょう
7.イベントカードに書かれているイベントに従って、それぞれのプレイヤーはライフを増やしたり減らしたりしてください。注釈がある場合は、それに従ってください。
8.イベントカードをめくったプレイヤーは次のプレイヤーがイベントカードをめくる前に、自分のライフを1つ消費して、「スキル」を使うことができます。「スキル」の効果はプレイヤーカードに書かれています。
-
6〜8を繰り返し、12ヶ月経過したらゲーム終了です。
プレイマットの裏に書いている勝利条件を確認して、それぞれのプレイヤーの立場から新しい地球〔SMART EARTH〕についてチームで相談してみてください。
もし時間に余裕があるなら......
-
勝利条件を確認したうえで、それぞれのプレイヤーの立場からもう一度アイテムカードを選び直してみましょう。新しい地球〔SMART EARTH〕に必要なものは最初に思っていたものとは違うかもしれません。
ライフが0になってしまったとき
-
ライフが0になったプレイヤーは、プレイヤーカードを裏返して「ひんし」にします。「ひんし」状態のプレイヤーはイベントカードをめくることができません。「ひんし」状態のプレイヤーカードの効果は、毎月の終わりに適用されます。
ひんしから復活する方法
-
「ひんし」のプレイヤーは他のプレイヤーの「スキル」によってライフをもらえた場合のみ復活することができます。※「ひんし」の時にはイベントカードの効力を受けません。
全プレイヤーが「ひんし」になったとき
-
その時点でゲームオーバーです。
テーマ
-
ポスト・アントロポセン
~生態系中心に地球について考える~
目的
-
この世界を持続可能な形で次世代に引き継ぐためには、目指すべき将来のビジョンを社会全体で共有することが必要とされる。
そのための第一歩は、日々複雑に変化する世界の全体像を、専門分野の壁を超えて表現・共有する手法を築くことである。
「SMART EARTH」は筑波大学の学際的な研究チームによる
ミニ・スマートアース構想(新たな社会システムや科学技術を試す場の創生)を題材に、社会・環境システムの将来ビジョンを表現し、その成果を広く世に発信することを目的とする。
ストーリー
-
第二の地球に移住することになったヒト、クマ、ショクブツ、サカナ。
その星には地震や火山の噴火、マイクロプラスチックなど様々な
災害が降りかかる。果たして彼らは正しい選択をして「スマートアース」を作り上げることができるのか......!
メンバーの一員として参画しているアラレグミは、クリエイティブ思考をベースに、国立大学や各研究機関をはじめとしたアカデミア研究を社会へ届ける活動を行っている。
2021年に内閣府が主導するムーンショット型研究開発制度のミレニア・プログラムにて、チームのコンセプトである「ポスト・アントロポセン」をわかりやすく伝える施策として、ボードゲームを開発。
より持続可能な地球を作るためにはどうすべきか。生態系中心の思考を促すために制作したのが、この「SMART EARTH」だ。
プロジェクト調査の一環として、奈良県立国際高校でワークショップを行い、このボードゲームを使用。ゲームを通じて、人間と他の生物の共存方法を議論する場をつくった。